西成紀行文
ついこの間生まれて初めて西成に行ってきた。
西成がどういう場所かはインターネットで調べたらわかるので説明するのは省略するとして、友達が行ってみるというので僕もついていった。
大阪でも結構(悪い意味で)知られている場所なのに一度も行ったことがなかったし、ちまたで囁かれている噂をこの目で確かめる良い機会ということで少し楽しみだった。
新今宮駅近くの商店街に入り、そこをしばらく進んでいった。
商店街といえばだいたいシャッター通りを思い浮かべるのだが、この商店街は人通りが多い。所々にあるカラオケ酒場にも結構人がいるのが確認できて、昼間っから酒を呑んでいる。
その先を進んでいくと、提灯街にたどりついた。
そう、飛田新地である。
昼間ということもあって人通りは少なかったが、ポツポツ仕事中の嬢がいて、男の性欲は時間を問わないものだなと感心。
歩いているとあちこちからババアが客寄せしてくる。そのババアの先にはえっちな女の子が待ち構えているのである。
「飛田新地の風俗嬢はレベルが高い」
と聞いたことはないだろうか。
実地まで実際に見てきた感想はというと、
「一周回ったらかわいい女の子が2、3人ほどいる」
という印象だった。友人曰く、
「それはレベル高いっていうことだよ」
ということだった。なるほど。
妖怪通りの嬢はまあ噂通り妖怪だらけだった。
貧乏人の3人組はちょめちょめするお金なんか持ち合わせてないので、飛田新地の人体のいきなりステーキを一周、二周と視察したところでその場を後にし、西成のさらに奥深くへと僕たちは歩いていった。
とりあえずどこかに入って飲もうということで店を探したのだが、どこもカラオケ付きの酒場で、なかなか普通に酒が飲める店というのが見つからない。
しかし歩いている途中に見つかるホテル兼貸し部屋の値段を見てたら、
「1ヶ月36,000円」
という破格の値段の風呂付きホテルや、1週間4000円の汚いのを我慢すればありえない値段だった。
周りの環境とかを全く気にしないのであれば、かなりいいんじゃないか?
友達がションベンしたいというので公衆便所の前で待っていると、ひとりのジジイが公衆便所の前に来て一人でぶつぶつ言っていた。
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜ここ公衆便所かいなぁ゛〜〜〜〜〜なんやここ、こんなとこでションベンでけへんわぁ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
そう言ってジジイは公衆便所の隣で立ちションをしていた。
なるほど、これが西成クオリティか、とバイセン(仮名)と感心していると、岩本寛也(本名)が急ぎ足で帰ってきた。
「あかん、オシッコしようとしたら先にションベンしてた爺さんが『なあ少年、ワシ、隣に人がいるとションベン出ぇへんねん』って言うからこっちもションベン出んくなってもうた」
ションベン欲求不満の二人ははそこで用を足すことを諦めてよその公衆便所を探してぼうこうを搾った。
この公衆便所の隣には公園があったのだが、公園なのか仮設住宅なのかわからないくらい、ビニールテントが乱立していた。ある家主なんかは犬も飼っていた。
この周りでは小さな無法地帯が出来上がっていた。
公衆便所を出てしばらく歩くと、木に変な物体がぶら下がっているのを確認した。
あれ、なんだか見たことあるものだな、と近づいてみると、幼少期の僕の親友だった。
しばらく見ない間に親友は、笑顔はそのままに、昨日に見捨てられた人の集まる場所で昼間っから木の上で焼酎の3Lボトルを一本空ける飲んだくれに変貌していた。
時は人を変える。無情にも。あ、クマかコイツ。
そろそろ呑み屋に入りたいな、とガード下付近をうろちょろしていると、一軒発見した。
「立ち飲み 銀仁」
カラオケ付きじゃなかったので即決で入店した。地域密着型Youtuberやどこかの社長、オッサン数人がその店の中でおしくらまんじゅうしていた。
そこで僕たちは三人でアルコール6杯、つき出し二品三人前、串カツ3人で37本、おでん4品二人前を頼んだ。
結構食ったな、と思って大体9000円ぐらいなはずだから一人3000円かな、と思っていたのだが、
「5880円です」
と驚きの安さで思わず「えっっ!!」と声が出てしまった。
食べ物もそこそこのクオリティで結構飲めて一人2000円もいかない呑み屋は難波、梅田とかで探しても見つからないだろう。
僕たち三人はかなり満足して店を出た。
巷に流れている悪い噂とは違って、活気があってそこまで悪い場所だとは思わなかった。ヘンなオッサンがいることや場所の不潔さに目を瞑れば、安く住めて安く食べれて結構いい場所なんじゃあないかと思う。
ただ、子どもと一緒に住むとなれば話は別かな。